井溝社会保険労務士事務所ブログ

2012年8月 1日 水曜日

事業所が社会保険の手続きを怠った場合の損害賠償責任について(その2)

昨日の話題に続いて、今日から事業所が社会保険の手続きを怠った場合の損害賠償責任についての事例研究です。

まず初回の今日は、事業所が控除した保険料を「一部納付しなかった」パターンの事例(事例1)を見ていきましょう。


【事例1の概要】
原告Xは、平成4年4月1日から平成7年7月31日まで、被告Y社で勤務していた。その間、約30万円の月給から厚生年金保険料として、117万9,600円を天引きされていたが、Y社は、社会保険事務所に対し、Xの月給を8万ないし9万2,000円に変更したと虚偽の内容を申告し、32万9,270円しか保険料を納入しなかったため、【将来受給する年金が減少】することとなったとして、Xが、①Yが納入しなかった金額と、②将来の年金減少分の損害(142万1,614円。年間5万6,638円の差額があり、60歳から平均寿命である85.1歳までの合計額)の支払いをYに請求した。なお、Xは老齢基礎年金および老齢厚生年金の受給に必要な300月を満たしておらず、かつ、損害賠償請求の時点で【受給権を有していない】。・・・という事例。(仙台地判平16.2.27)


【事例1の争点】
・不法行為の成否
被告会社の代表取締役であるAは、原告の・・・給与から・・・117万9,600円を健康保険および厚生年金の保険料として控除しながら、国へは32万9,270円のみを納入したところ、これらの差額分85万0,330円については、国は消滅時効により徴収する権利を失ったと解されるから・・・原告に返還すべき・・・85万0,330円を【横領したというべき】ものであり、被告会社は、民法44条1項により、原告に生じた損害を賠償する【義務がある】。

・損害額
仮に、原告主張の年金減少分の損害が認められるとしても、年5分の割合により中間利息を控除すると・・・次のとおり、25万9,889円となる。・・・この額は、・・・横領による損害額を【下回るから】、横領分の損害に【加えて】年金減少分の損害を認めるべきであるとの原告の主張は【理由がない】。


【私的なコメント】
どうも事例1では、受給権が無い、というところがポイントのようです。
受給権があれば給付額に反映されるのでしょうが、今もって受給権が無くて、かといって徴収権が時効をむかえていて今更納付もできない状態なので、横領した分は本人に返せ、という着地ですね。

一方で、原告が勝ちはしましたが、将来の年金減少分を試算しても横領額を超えないので、賠償額への上乗せはできない(原告の主張認めず)と判断されています。なるほど。


では、今日はこの辺で。
今日を含めて連続4回で4つの事例を取り上げます。次回は、事業所が控除した保険料を「全部納付しなかった」パターンの事例(事例2)を見ていきたいと思います



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投稿者 井溝社会保険労務士事務所

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